スカイダイビング・イン・グアム

寺倉 正高 筆

 
   グアムでダイビングをやりました。スキューバではなくスカイです。タンデムジャンプと言ってインストラクター(タンデムマスター)とフックで繋がって親亀小亀状態で飛ぶもので、TVで時々タレントがやっているのを見たことがありませんか。私が行ったところにも浅野ゆう子や風間トオルの写真がありました。

 グアム行きを決めた時になんとなくやってみようと思いました。経験した人のほとんどがもう一度やりたいと言うそうです。人生観が変わった人もあるとのこと。家族にはガイドブックを見ながら「これ面白そうやなぁ...」とだけ言っておきました。ちょっとした思い遣りのつもりです。自分では内心わくわくしておりました。いざその場になって楽しめるのかびびるのか自分の変化に興味がありました。

 さて当日の天気は晴れたかと思えば急にシャワーが来たりで実に不安定です。とりあえずホテルのフロントで申し込んで、近くのコーヒーショップまで走っていきました。前夜お酒を飲んでわいわい言っておりましたが頗る快調です。お仲間が良かったからでしょう。美味しいカプチーノを飲んで先に来ていた方達と朝食ですが、空ばっかり見ておりました。この店にはパソコンがあり何処へでもメール出来るのでみんな日本へご挨拶。私も「帰れない時はよろしく」と打ってもらいました。冗談ですがちょっと意味深です。ここで皆さんに迷惑が掛かると悪いので「飛んできます。2時半頃帰ります。」と打ち明けました。

 ホテルの部屋で待っていると、「今から迎えに行きます。」と電話あり。「よっしゃあーー、やったろーー。」

 オフィスに着いて手続き。18歳以上。90kg以下。お酒を飲んでいませんね。24時間以内にスキューバダイビングしていませんか。その他色々な持病ありませんか。万が一なにかあっても訴えません。書類に一杯サインさせられます。(全て日本語で書いてあります。ヤレヤレ。日本人が圧倒的に多いとの事で当然です。)続いてビデオと口頭で説明です。この間約15分ぐらい。さあ準備出来次第行きましょう。すっごい簡単。待っているあいだにみんなでトイレ。やっぱり少しは緊張しているのかな。

 リチャードと言うタンデムマスターを紹介されました。オーストラリア人で1万回ほど飛んでおり競技会にも優勝したベテランです。私の担当です。つなぎのジャンプスーツを着てハーネスをつけます。だんだん雰囲気がでてきます。外へ出ると格納庫の前にセスナがチンと停まっています。ちっこいなー。10人が乗り込んでぎゅうぎゅうで身動き出来ません。ちなみに飛ぶのは私と台湾の若い2人ですが、マスターと専属のカメラマン(これはオプションでいっしょに飛んでビデオと写真を撮影してくれます。ちょっと迷ったけれど頼みました。)がいます。

 セスナのエンジンが駆けられてプロペラが回ります。滑走路に出てぐんぐんスピードがあがります。
 「Take Off !! Let's GO !!! You are crazy man !!! You too !!!」
なんかごちゃごちゃ叫んでだんだんテンションが上がってきます。日本語は私1人。英語と台湾語がやかましい。負けてられんと声をはりあげました。
 「Beautiful ! Wonderful ! Splendid ! Marvelous ! Excellent ! !!!! もう思いつかんわぁ!!!!」

 セスナがエグジットポイント(10,000ft、約3,000m)まで上がるのにわりと時間がかかります。さすがにみんな大人しい。外の景色が綺麗です。街並みがどんどん小さくなって遠のいていきます。真っ白い雲を突っ切って上へ上へ。シャワーが来て待ったけれど青空に白い雲が浮かんでるのが実にいい。かえって良かった。しかし寒くなってきました。当たり前です。セスナの片側は口がぽっかり開いてます。ここから出入りするんですがもともと扉がありません。便利になっております。

 さあもうすぐです。わくわくして来ました。隣の子は胸がバッコンバッコンと言っております。TVで見たタレントは大騒ぎしてべそかいておりましたが、あれは演技ですかね。自分では普段怖がりと思っていましたが、鈍感なのかまったく恐怖感がありません。すごく冷静に観察しています。少し自分を誉めてやるか。はっはぁんそやないで。あんまり高いので怖さがないんやで。狭いところでごそごそとハーネスでインストラクターと繋ぎます。これをミスるとまずいです。私は2番目に飛びます。またまた大声上げてテンションあげる。いよいよだ。

 せーのー…… ふわぁー 本当にこんな感じで踏み出します。落ちる感覚は一瞬ですぐに浮かんでいるじゃないかと錯覚します。パラシュートを開くまでをフリーフォールと言いますが、約30秒ほどあります。実際は猛烈に風をきる音とすごい風圧を受けて、時速200キロで落ちております。アーチェリーの矢のスピードとほぼ同じ。新幹線の窓から顔を出した時と同じ。髪の毛が天を差し顔の肉が上へ引っ張られます。この感覚は今まで味わったことのない最高の快感です。ゴーグルのおかげでなんでもはっきりみえます。緑の島がみえます。目の前にカメラマンが浮いております。あとでビデオを見れば私は終始笑っておりました。悦びで一杯。天にも昇る気持ちです。(落ちてるっちゅうねん。)

 インストラクターが腕に付けた高度計を見ております。4,000ft。パラシュート開け!グィーン 身体が急に引き上げられるように感じ、ハーネスが太ももに食い込みます。空気を切り裂く強烈な音がぱたっと止まり、全くの静寂が訪れます。無音の世界です。静かとはこんなことか。そんな中で思わず「サンキュウ リチャード!」と口走りました。ラリホー!!完璧に空中を漂っております。きらめく太陽青い空白い雲。緑のジャングル、紺碧の海砕ける波の白。素晴らしい眺めです。全く声がでません。鳥はいつもこんな美しいものを見てるのか。時々パラシュートを操って方向転換。ぶらーんぶらーん ビユーン、空の上でブランコをやってるようで、相当スリルがあります。それ以外は静かに沈んでいく感じ。心も静か。何時までも続いてほしい。…… ……。

 10分近くたって着陸地点が見えてきました。迎えの人が手を振っています。ぐんぐん大きくなります。凄いスピードです。着地の直前にコードを操ってふわりとソフトランディング。ぜんぜん衝撃がありません。さすがベテランインストラクター。「Thank you!」「Good job!」握手。カメラマンとも握手。周りの人みんなと握手。よかった よかった。
みんなにこにこ にこにこ。

 オフィスに戻る車中はまたまた大騒ぎ。充実感がいっぱいの笑顔ばかりです。事務所のお嬢さんがコップに水を入れて渡してくれました。ごくごく。一気です。「うっまぁー。」ビデオと写真のネガを待つ間に備え付けのノートをめくると色んなコメントが書かれています。私も 「?→!」 と記帳しました。こんな気持ちです。次は是非ご一緒に。

  自ら望んでやる事は何でも出来る。

  何でもやって見なければわからない。

1999年12月
寺倉 正高

 
     

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